最近はスローフードとか言うもんが流行りなんやそうで…。なんでも、農薬を使わない有機農法で育てた野菜とか自然の飼料だけを食べさせた牛とか豚とか鶏の肉を材料にして、じっくり手間隙をかけて料理したものを食べようということらしいんですな。それが人様のからだに一番ええのんやそうです。そういえば、昔、お母ちゃんがつくってくれた味噌汁なんかは、このスローフードの代表みたいなもんかもしれませんな。手間暇かけて手作りしているうちに、たっぷりの愛情が注がれてたんでしょうな。せやから、とってもおいしかったんやないかな、と思うんです。
ところで、このスローフードの対極にあるのが、ファストフードというやつやそうです。ハンバーガーとかを代表にして、牛丼とか、カレーライスとか、ラーメンとかがよく知られとりますな。ちょっと目のつけどころを変えてみると、なんと、今では高級料理のてんぷらや寿司かって、それらが生まれたばかりの江戸のころには、いわゆるファストフードやったんですな。屋台のてんぷら屋とか寿司屋が露天で町人相手に売り歩いていたそうやから、そらもう、今でいうファストフード以外のなにもんでもありまへん。いわゆる、お気軽グルメやないですか。それがどんどん人気もんになって、いつしか福沢諭吉さんを何人も連れて行かな食べられへんようなセレブなもんになってしもうたんですから、時代の流れちゅうもんは、なかなか馬鹿にしたもんやないですなぁ。
とは、言うもんの、高級料理の代表になった寿司といえば、最近、回るのんが人気ですな。一皿一〇〇円とかを謳い文句にしている寿司屋なんかでは、休みの日に家族連れが長蛇の列をつくってるのを見かけたりします。ま、先祖帰りと言いますか、再び寿司はカジュアルなファストフードに返り咲いたのか、と思うしだいであるわけです。そして、今や寿司と言えば回るもんと思おとる子どもたちも増えているとうかがっております。
回る寿司ができたことで、寿司は大衆のもんになり、誰もが気軽に食べられるような身近なもんになりました。が、そうなると、ほんものと言われる回らへん寿司、これまで普通に寿司屋と言われていたところで寿司を食べてみたくなるのが、人の情というもの。でも、そこはやんごとなきお料理の一員です。なかなか庶民の口におさまるようなお安いもんではございません。しかし、世間も捨てたものではありませんわな。そう、会社勤めをまじめにされているお方々にはボーナスという強い味方がありますわな。年に2度の臨時収入といいますか。ま、人生における楽しみのひとつだそうで、咄家の私らみたいに高座のたんびに給金をいただくような、その日暮らしをしとるもんには、なかなか味わえない贅沢な気分になるらしいですな。近ごろは、そんなまとまった収入が回ってきたときに、回らへん寿司屋さんに回って来る初心者の人が増えると聞いております。
子…「お父ちゃん!ここのお寿司屋さん、お皿がぜんぜん回ってへんで!それに、なんなんや!おっちゃんが、手で、手で寿司握ってはるやんか!」
父…「そんな目ひんむいて、泡吹きながら叫ばんでもええやないか。さぁ、ぶつぶつ言うとらんと早よ座り。カウンターやから、ちょっとお前の背ぇには高いかもしれんけど、ここからやったら職人さんが握ったはるところがよく見えるよってにな」
子…「ほんまやなぁ、よう見えるな。けどな、お父ちゃん。こんな寿司屋さん見たことないんやで、ぼく。お皿は回ってへんし、寿司はおっちゃんが手で握っとるし。なんか古臭い感じがするのやけど…。ほんまにここのん、食べられるんかいな」
父…「あほぬかすな。これが、ほんまもんの寿司屋さんなんやで。寿司をひとつひとつ人の手で、ていねいに握ってくれたはるんや。せやから、抜群においしいんやって」
子…「せやけどな、お父ちゃん。おっちゃん、手で握ったはるやん。あの手、ちゃんと洗ろたはるんやろうか。学校の給食はな、ばい菌が入らんようにな工場でつくってはるねんで。なるべく人の手に触らんようにしたはるんやそうや。そうせんと清潔にできひん、ちゅうて担任の先生が口をすっぱくして、必死こいて言うたはったで」
父…「あんな、よう聞きや。給食はそうかもしれん。けどな、ここは寿司屋や。職人さんはな、ちゃ~んときれいに手を洗ろたはるんや。よ~見てみ。ほら、握り終わるたんびに手、洗ろたはるやろ。何にも心配せんでええのんや」
子…「せやけど、鼻くそほじくった指でそのまんま寿司を握ったりしやはらへんのやろか。塩味効いておいしおまっせとか言うて…。お尻がかゆなってボリボリって掻いて、その手で魚をさばいたりしたりしたりはしやはらへんのやろか。ええ出汁が出ますねん、とか言いながら…。それに、ちゃんと薬用石鹸を使こたはるんやろか。ばい菌なくなってるんやろか?ぼく、とっても不安や」
父…「なにをごちゃごちゃゆうとんねん。あの人らはプロなんや。安心して任しといたらええのんや。ほら、注文するで。今日はな、お父ちゃん、ボーナス出たさかい、何でも好きなもんを好きなだけ注文したらええのんやで。何も遠慮することないよってにな。お前の好きなもん、なんでもたのみ」
子…「そうか、ほんまにたのんでええのんやな。ほんなら、ハンバーグと牛塩カルビとミートボールと…それと、デザートは、メロンとプリンがええなぁ。あと…」
父…「おいおい、ここは回る寿司の店やないんやで。そんなメニューあるかいな。そんなんたのんだら、店の大将が怒らはるで」
子…「そんなん言うたかって、どうやって注文したらええんや?回ってくるお皿がなかったらわからへん」
父…「ほら、後ろの方に、いろいろネタの名前と値段が書いてある板がぶら下げてあるやろ。それとな、目の前にガラスのケースがあって中にいっぱいネタが入っとるやろ。そんなんを見ながら注文したらええのや」
子…「ふ~ん、そうか…いっぱいあるなぁ。タコ、エビ、マグロ…字だけ見ててもようわからんなぁ…。そうか、ケースん中見たらええのんやな。どれどれ…なんや白いのんとか、赤いのんとかいっぱいありよる。けどかたまりを見ても何の魚かぜんぜんわからへんなぁ…」
回る寿司ばかりに慣れ親しんできた子どもだけに、ほんとうの寿司が乗った皿を目の前で見せてもらえないと、なかなか握ってもらうネタを決めることができません。値札の板とケースを見比べては、首を左右に振って思案に暮れておりました。しばらくすると、ついに腹をくくったのか、父親の方を向いて話し出しました。
子…「お父ちゃん、お父ちゃん、あそこの値札のとこにな、アワビときか、て書いてあるやろ。ぼく、あれにしよかなと思うねん」
父…「おぉ、ええとこに気ついたなぁ。あれはな、じかと読むんやで。市場に行ったらな、日によって仕入れの値段が変わるやろ。ごっつ高い日もあれば、まあまあ安いときもあるわな。時価というのはな、その時々の仕入れ値に合わせて出しますわ、ちゅうことなんやな。つまりボッタクリせえへん正直な商売をしております、ということなんやで」
子…「ふ~ん、その時々の値段で、ちゅうのが、株の取引みたいやなぁ」
父…「お前、えらい難しいことをよ~知ってるなぁ」
子…「この間、学校で習ろたんやで。これからはな実社会のことを若いうちから知っとかなあかんゆうてな、バーチャルの株取引を授業でするんや。一発勝負で大金持ちになるやつがいるか、と思おたら、勝負に負けて公園暮らしするやつかって出てきよる。なんともスリリングなひとときなんや」
父…「えらい授業してるんやなぁ、最近の小学校は…」
子…「せやで。なにしろ、みんな勝ち組を目ざさなあかんやろ。せやから、ごっつ真剣なんやで。もしも、公園暮らしの身分になってしもたら、そこから這い上がるのが大変なんや。ま、お笑い芸人になったら、なんとか一発逆転できるみたいやけどな。でも落語家ではムリみたいやで、残念やけど。」
父…「せやな、落語家は世知辛いわな」
子…「ところでお父ちゃん、時価というのは、株券みたいに大暴落することもあるんかいなぁ。国産やと思てたんが、実は中国産のアワビやいうことがバレてしもて、タダ同然の値段になってしもてるとか、ウニが獲れすぎて値打ちがなくなって捨て値で大安売りされてるとか、そんなことってあらへんのやろか」
父…「まず、そんなこと聞いたことないなぁ。たいがい時価いうたら、目の玉飛び出るほど高いことの代名詞みたいに使われとるしな。でもな、時価のもんちゅうたら、食べてもたいてい栄養にならへんもんが多いな。アワビにしてもエリンギとあんまり味変わらへんし、ウニにいたっては黄色くて気色悪いだけやし。ほら、食べたら、海臭いやろ。トロなんか、江戸時代の人は食いもせなんだらしいで。あんな脂のかたまりみたいなもん、からだにええわけがないやろう。ムリして食べることないわな」
子…「けどな、お父ちゃん。奥の席に居たはる化粧の濃い派手なお姉ちゃんを連れた腕時計と頭のてっぺんがやたらまぶしいおっちゃんな、アワビとかウニとか大トロとか、時価のもんばっかり食べたはるで」
父…「せやから、よう見てみいな。あのおっちゃんは、明らかにメタボやろ。高いもんばっかり食べてたら、あないなるねん。あんな風に、なりとうなかったら、時価のもんは、たのまんこっちゃ」
子…「せやけどな、せやけどばっかりやけどな、時価のもんばっかりたのめるからこそな、あんなおっちゃんでも、あ~んな若いお姉ちゃんがいっしょに遊んでくれるんと違うんやろうか。」
父…「そら、そうかもしれんけど…。けどな、時価のもんを食べへんかったって別に命にかかわることはないやろうし…確かにモテへんかもしれんけどな。せやから言うて、ここで食べなアカンもんでもないやろう。幸せは先延ばしにした方が大っきなるとも言うしなぁ。もう少し大人になるまで待ってもええんと違うやろか。子どもにはわからん味やしな、きっと」
子…「それは、お父ちゃん、やんわりと、アワビはやめとき、いうてなさるのか?」
父…「さすがは、わしの子や。ええ勘しとるがな。そのとおりや」
子…「つまりは時価と書いてあるんは全部パスしいや、ちゅうことなんやなぁ」
父…「ほんまお前はできた子や。天才やな」
子…「もう一回繰り返すけどな、時価のもんはあかん、ゆうことなんやな」
父…「そんなお前の疑い深いところが、スッキー」
子…「もう、ええわ、お父ちゃんに任すわ」
父…「そうしぃ、そうしぃ。う~ん、しからば、やっぱり最初は玉(ぎょく)にしとこか」
子…「え、ぎょくってなんや?」
父…「お、知らんのかいな。玉子焼きのことや。玉子焼きの味で、その寿司屋の実力がわかるとも言うのや。通は、玉からはじめて、また玉で〆るとも言われてるんやで」
子…「ふ~ん、そうなんか」
父…「玉握ってもらえますか、それとビール」
ぎくしゃくしながらも、最初の注文ができて父親も内心安堵しよりました。ま、人間、ちょっと気が楽になりますと、態度も横柄になりがちですな。そこにアルコールが入りますから、子どもに対して、あ~だ、こ~だ、と説教くさく、しつこく指図をしはじめます。
父…「ええか、寿司はなぁ、箸なんか使こうたらアカンのやで。ほら、こう親指と人差し指でそっとつまんでやな、ネタの方をこのムラサキにやな…、え、しょうゆのことをムラサキと言うのやがな…よう憶えとき。このムラサキにネタをつけるんやで。間違ってもシャリにつけたらあかん。ご飯粒がムラサキの皿にポトっと落ちたりしたらカッコ悪いことこの上なしや。それでは粋にはなれへん。ええか、シャリちゅうたらご飯のことやで。ほんま、お前はなんにも知らんやっちゃさかいな、ええ機会やからいま教えといたる。忘れたらアカンで。株のこと知っててもムラサキとかシャリのこと知らなんだら、世間渡っていけへんで、まったく…」
子…「そうやなぁ、お父ちゃんの言うとおりかもしれんなぁ。けどな、なんで、しょうゆのことをムラサキってゆうんやろな。」
父…「ふん、そんなん、色がムラサキやからに決まってるやろ。見てみいな、ムラサキ色に見えるがな」
子…「そうなんやろうか、ぼくには茶色にしか見えへんけどなぁ。それに、一説によるとな、昔、しょうゆはとても値段が高い貴重品やったんで、高貴な色のムラサキを当てた、という話もあるそうやし…」
父…「なんで、お前、そんなことまで知ってるねん?」
子…「こないだテレビでゆうとったで」
父…「ほんまかいな」
子…「ついでに言うとくとな、シャリかってな、仏さんの骨の舎利から来てると思たはる人が多いようやけど、ほんとはな、インドのなサンスクリット語のお米を意味するシャーリーが語源なんやそうやで。音はいっしょのシャリなんやけどな意味はな米と骨という違うもんなんやって…」
ビールの酔いがほどよく回って、どんどん父親はおしゃべりになってまいります。が、さすがに、この親にしてこの子ありで、子どもは慣れたもので、軽くあしらっております。
子…「ほんま玉はおいしかったわ。次は何をたのもかなぁ。なぁ、お父ちゃん、何たのんでもええのんやなぁ」
父…「そうやで。回る寿司ではたのめへんようなもんをたのみ」
子…「そしたら、とりあえずマグロにしようかなぁ、お父ちゃん」
父…「何を言うてるんや、わかっとらへんなぁ。さっきも言うたやろ。回る寿司にあるようなもんはたのんだらアカンって。マグロなんかいつでも食べられるやないか」
子…「ほんなら、タイは?」
父…「タイかって、いっしょやがな」
子…「イクラもか、ウナギもか、サーモンもか、鉄火巻きもか…」
父…「ようわかっとるやないか。そんな、いつでもたのめるようなもんは、止めておきなさい。ダメ、ダメ」
子…「そんなん言われたら、何をたのんだらええのか、全然わからへん」
父…「そんなにムズかしゅう考えんでもええやないか。太巻きとかお新香巻きとか、いろいろあるやろ。遠慮してるんとちゃうか」
子…「遠慮なんかしてるかいな。けど、回る寿司になくて、この寿司屋にあるもんちゅうたら何があるんやろ」
父…「何度も言うけど、時価はあかんで」
子…「わかっとります」
父…「あ、そうやイカやったらええで。ただしヤリイカはアカン。けど、スルメイカやったらオーケーや」
子…「その基準がわからん」
父…「ええねん。お前は、黙ってお父ちゃんの言うことを聞いといたらええねん。決して損はさせへんからな。あ、それとエビもええで。負けといたろ。なんでもダメ出しされたら困るやろうし…」
好きなもんを好きなだけたのんだらええ、なんて言いながら、なんとも理不尽なことを父親は続けます。でも、子どもはできたもので、逆らわずに我慢に我慢を重ねて、なんとかスルメイカとエビをせしめて、なんとなく回らへん寿司屋を満喫しておりました。まったく、いたいけなもんですな。
子…「お父ちゃん、回らへんお寿司屋さんもええもんやなぁ。ゆうたらすぐに握ってくれやはるし。おいしいし。なによりスゴイのは、回る寿司屋にあるロボットと同じことをこのおっちゃんらはしたはるんやろ。それがビックリや。ロボットにしかできひんようなスゴイことを寿司職人のおっちゃんらはしたはるねんな」
父…「おいおい、そりゃ、逆やがな。寿司職人さんのハイテクな技術をロボットが真似してるんやがな。けどな、まだまだロボットは追いつけてへんねんで。どや、この寿司を食べてて気つかへんか。口に入れたとたんにネタとシャリのおいしさがひとつになって、ふわっと口の中に広がりよるやろ。それはな、空気を米粒のまわりに含ませるように、上手に握ったはるからなんやで。それがプロの技術なんや。そういうところがロボットにはできひんとことなんやなぁ…」
子…「ふ~ん、寿司職人さんはえらいんやなぁ。ぼくも大きくなったら寿司職人になろうかな」
父…「そら、ええかもしれんな。お前が職人さんになったら、お父ちゃん、毎日でも寿司が食えるわなぁ。ええなぁ。なれ、なれ、今すぐ弟子入りせえ」
子…「ちょ、ちょっと待ってえな、お父ちゃん、せっかちすぎるで、なんぼなんでも…。まだ、ぼく小学生なんやからな。まだまだせんなんこといっぱいあるし…」
酒の勢いのせいとはいえ、まったく気の早い父親がいたもんで、子どもは頭をかきかき困り果てておりますが…。ようやく、ふたりとも店の雰囲気に慣れてきたみたいで、やっとくつろいだ気分が味わえるようになってまいりました。すると、店内のことがいろいろと目についてまいります。
子…「お父ちゃん、あそこ、店の端っこの方になんか水槽があるなぁ」
父…「ほんまやな、あれは生簀っていうんや」
子…「なんや、水族館みたいやなぁ。たくさん魚が泳いどるなぁ」
父…「そうやろ、ハマチにタイにフグに、底にはヒラメがいてるな。クルマエビも泳いどるで。あん中の魚はな、注文したら料理してくれるんやで。横に札があるやろ。お造りできますって、な」
子…「ほんまやなぁ、書いてあるなぁ。あんな、お父ちゃん、ボーナス出たんやろ。今、お金持ちなんやろ。なぁ、活ハマチの造りをたのもうな。食べ切れへんかったらな、包んでもろうて家に持って帰ったらええやん。お母ちゃん、ハマチ好きやったやろ。なぁ、絶対、お母ちゃんも喜ぶで。なぁ、なぁ、一生のお願いやさかい。活ハマチたのも、なぁ、なぁって」
ここぞとばかりに子どもは必死でせがみます。その迫力たるや店内のほかのお客さんがびっくりしてナマ唾をのんで成り行きをずっと見守る…といった様相でした。あまりのパワーにおとぼけ父親もタジタジですわな。
父…「そうやなぁ…。お母ちゃんもハマチ好きやったなぁ。きっとお土産に持って帰ったら喜ぶやろうな。お父ちゃんの株も上がるやろうな…」
子…「そうや、そうやで、お父ちゃん。いっつもいっつもダメ親父ダメ親父いうて怒鳴られてるやろ。この活ハマチで一発逆転やで。9回裏に満塁ホームラン打って逆転勝利するんや。それができるんは、この活ハマチ以外にはあらへん。まさにな、お父ちゃんのリーサル・ウエポンなんやで」
父…「う~ん、やっぱり、この活ハマチしかないんか。夫婦和合、家庭円満は、活ハマチにしか担えないのやろか。あぁ、神様、私は自分の人生をこの活ハマチに託すべきなのでしょうかぁ!」
子…「お父ちゃん、そりゃちょっと大げさすぎるんと違うやろか」
父「けど、それくらい勇気のいることなんやで。活きたハマチは高いもんなぁ…。清水の舞台から飛び降りるようなもんやな」
子…「それほどのことかいな」
父…「おや、ヘンやで。あの活ハマチ。あれ、あれれ…」
子…「なにがヘンなん?どっこもおかしいとこあらへんけどな」
父…「そら、お前らみたいに人生経験の浅いもんには、わからへんやろう。寿司職人さんでもよっぽどの目利きやないとわからへんと思うで」
子…「ほんで、なにがヘンやってゆうのん?そんなんお父ちゃんにわかるんかいな」
父…「お父ちゃんには、わ・か・る・ん・で・す。お前は、ほんまのほんまに、活ハマチが食べたいんやな。神に誓えるな」
子…「ああ、そうやで。神に誓って活ハマチが食べたいんや」
父…「そうか、そうか。これは、あんまり大きな声では言えへんねんけどな。活ハマチは、もうおらへんねん」
子…「おらへんて、おかしなことを言わはるなぁ、お父ちゃん。ほら今、目の前を泳いどるがな」
父…「そうやな、泳いどるな。でもな、あれは、活ハマチとは違うねん」
子…「違うってどうゆうことやねん」
父…「ビックリしたらあかんで。落ち着いて聞きや。あの活ハマチはな、ついさっきな、ブリになってしもうたんや」
子…「なんじゃそりゃぁ???」
父…「仕方がないやろ。出世魚なんやから。むしろ、お前とお父ちゃんとで、活ハマチがブリに出世したことを祝ったらなアカンのと違うか。ほら、拍手したりいな」
子…「わけわからんわ!そんな言い訳をしんなんくらい、高いもんを注文させとうないんかい!お父ちゃんは、そんなにケチ臭い男やったんか!」
父…「そら、そうや、回らへん寿司屋で高いもんをたのまれてしもうたら、今度は、お父ちゃんのこの首が回らへんようになりますよってにな」
おあとがよろしいようで。